意地悪な副社長との素直な恋の始め方
「……シゲオ?」
「ジョージよっ!」
「いや、シゲオでしょ」
「ジョージ」
「どこからどう見ても、日本人の『マキタ シゲオ』でしょうが」
「それは、あくまでも戸籍上の名前よっ!」
往生際悪く叫んだのは、やはり高校の同級生。
記憶している姿よりは頬がシャープに、身体はちょっと逞しくなっているけれど、まちがいなく遊び仲間だった「牧田 茂雄」だ。
「ここで何をしてるの? シゲオ」
「だからジョージだって言ってんだろうがっ! 開店前に、ここで京子ママやスタッフのヘアメイクをしてるんだよ」
「ヘアメイク……あ、美容師になったんだ?」
「そう。カリスマ美容師一歩手前よ!」
シゲオは高校卒業後、カリスマ美容師になるという夢を叶えるべく、専門学校へ進学。その後、ニューヨークに留学したと人づてに聞いていた。
実に五年ぶりの再会だ。
「ちゃんと夢に近づいてるなんて、すごいじゃん! シゲオ。それにしても……相変わらず、ソコソコなイケメンね?」
「ソコソコですってぇ!? アンタはっ! 相変わらず、減らず口の憎たらしい女ねっ! しかも、そんなダッサイ恰好で、よくこの店に入れたわね? 偲月」
あからさまな蔑みの視線を受け、ムッとする。
「ダサイって……べつに、普通でしょ」
今日のわたしの恰好は、膝下丈の紺色フレアスカートに春らしいピンクのカーディガン、足元はバレエシューズといういで立ち。
いわゆる庶民的お嬢様風。結婚相手の親に気に入られるような、保守的な格好をしている。
「甘々な雰囲気の守ってあげたくなるようなか弱い女子なら、問題ないわよ! でも、外見からして肉食獣のあんたには似合わない。パステルカラーなんて、論外よ。さらには……その手抜きメイク、なんなのっ!? 出来栄えはともかくとして、高校生の頃の方がもっとちゃんとしてたでしょうが!」
「に、肉食獣って……これは、手抜きじゃなくてナチュラルメ……」
反論しようとしたわたしの言葉を、被せぎみにシゲオが否定した。
「手抜きとやる気のなさを都合よく『ナチュラル』に置き換えるんじゃないっ!」