意地悪な副社長との素直な恋の始め方
「着用したあとはどうぞお持ち帰りください」
「え、いいんですか?」
「はい。もともと、明槻さんのサイズで用意したサンプルですので」
どうやって、わたしのサイズを知ったのか謎だけれど、ドレスをキレイに着こなすには相応しい下着が必要不可欠だ。
彼女が目をつぶって後ろを向いてくれている間に、素早く着替える。
「まずは、深緑のドレスから試着してみましょうか」
「はい」
「やっぱり『Claire』のドレスって、ステキですよね。すでにドレスを選ばれていたお客さまでも、明槻さんが表紙を飾ったあの雑誌をご覧になって、できれば変更したいって問い合わせされる方もいて」
「え。そんなに……人気があるんですか?」
「はい。でも、デザイナーがものすごく気難しいと有名で、アジア圏のブライダル業界では彼女と契約を結ぶのは不可能に近いとまで言われていました。だから、副社長が彼女を口説き落としたと聞いた時は、びっくりして……、スタッフ一同大喜びしました」
「恥ずかしながら、わたし……全然知らなくて。やっぱり、すごく人気があるんですね。『Claire』のドレス」
「ええ。『Claire』のドレスは、個性的で、斬新でありながら、不思議とどこかノスタルジックな雰囲気もあって、少し年齢が高めのお客さまにも人気があります。クラシカルな雰囲気のチャペル、アットホームな披露宴やガーデンウエディングにもよく似合うんですよ?」
ぐるりとわたしの回りを巡って、粗がないことを確認した彼女は、廊下で待っていた二人を呼び戻した。
流星は「悪くないな」と言い、シゲオは前から横から後ろからと、わたしをじっくり観察して、うんうんと頷く。
「シンプルで、オフショルだから、色気があって大人っぽいわね。メイクは濃いめがいいかしらね」
「取り敢えず、写真撮るぞ」
流星が手渡したスマホを構え、俄かカメラマンとなったシゲオに、「もうちょっと顔は右」「見つめ合って!」などと指図を受けながら、即席モデルを務める。
正面、横、後ろと撮り、次は青いドレスへ着替える。
立ったり座ったりしながら撮影を終え、三着目はオーソドックスな結婚式ではあまり見られないシルバーと黒のドレスだ。