意地悪な副社長との素直な恋の始め方
「ち、近いぃ!」
キスしそうな距離の近さに、焦る。
「んだよ、そんなに嫌がるなって」
「偲月、もっとくっついて! ラブラブに見えないじゃないの!」
シゲオが、出来る限り流星から離れようとして、背筋の限界まで身体を反らすわたしを叱りつける。
「ドレスを撮るだけでしょ! ラブラブに見える必要ないでしょ!」
大体、流星に抱き寄せられた状態では、肝心のドレスが見えないだろう。
しかし、シゲオと流星、なぜか店舗スタッフまで即答された。
「あるわよ!」
「あるな」
「あります!」
「なんでよっ!?」
「雰囲気も大事な要素だって、モデルでカメラやるおまえならわかるだろ? ん?」
流星は、そんなこともわからないのかとバカにする。
「そう、だけど。でも、それとこれとは……」
「これくらいやんないと、アイツ素直になれねーだろうから」
「え?」
「はいー、次はほっぺくっつけてー、こっち向く!」
「了解!」
「あっ」
無茶苦茶なシゲオの指示に、そんなことできるはずがないと言う間もなく、流星の頬が頬に触れる。
「偲月! なんて顔してるのよ! アンタは幸せいっぱいな花嫁なのよ!? 嫁姑の終わりが見えないバトルの最中、夫の浮気が発覚した般若一歩手前の妻みたいな顔になってるじゃないの!」
「たとえが具体的すぎて、逆にわかりづらいから!」
「とにかく、笑いなさい」
「む……ひゃあ! な、なにす……」
「人は、無理にでも笑っているうちに、本当に笑いたくなるんだぜ?」
そう言う流星は、顔を強張らせるわたしを強制的に笑わせるという手段に出た。