意地悪な副社長との素直な恋の始め方
「あ、あなたたち……いい相方になれそうね」
漫才のようなわたしたちの遣り取りに、京子ママは堪え切れなくなったらしい。
盛大に笑い出した。
シゲオは、そんなママをじとっとした目で睨みつける。
「京子ママ。わたしが目指しているのは、カリスマ美容師よ!」
「ふっ……くくく……そんな未来のカリスマ美容師を見込んでの頼みよ。偲月ちゃんをキレイにしてあげて?」
「頼まれなくても、たるみ切ったコレを改造したくてウズウズするわ」
手を組んで、バキバキと指を鳴らすシゲオことジョージの顔には、嗜虐的な笑みが浮かんでいる。
たらり、とイヤな汗が背筋を伝い、無意識に後退りしかけたわたしの背を京子ママがしっかり受け止めた。
「というわけで、偲月ちゃんにはこの週末、ジョージの指導を受けてもらうわね? 来週月曜の夜からお店に来て。まずは裏方を手伝ってもらって、お店の雰囲気に慣れてから、お客さまについてもらおうと思うの」
「あの、指導って……何を?」
「メイク、服装、立ち居振る舞い……ステキな女性になれるよう、手取り足取り教えてあげるってことよ! そうと決まれば、ビシバシいくわよ。いいわね? 偲月。まずは……その気の抜けた茶髪をどうにかしないと! 見るに堪えないわ。京子ママ、またあとでね~!」
「頑張ってね! 偲月ちゃん」
京子ママは、シゲオに引きずられるようにして店を出るわたしを、満面の笑み――完全に面白がっている笑みで、見送った。