意地悪な副社長との素直な恋の始め方
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シゲオにダメ出しされた後、彼のオフィス兼サロンに連れて行かれたわたしは、「気の抜けた」茶髪をブルーブラックに染められた。
背中の中ほどまで伸ばしっぱなしだった髪は、毛先を切り揃えただけでも、かなり印象が変わる。
「別人……」
「ほんと、信じらんない。どうしたらここまで似合わない恰好ができるのよっ!? ある意味、すごいセンスだわ」
「うっさいなぁ。似合ってないこともないでしょ」
「いいえ! あり得ないくらい、似合っていない! 外見もそうだけど、中身もね」
力の限り否定されてむっとしたが、気になるワードがあった。
「中身?」
「高校の頃のアンタは、ちゃんと自分が好きで、それなりの自信もあった。でも、いまのアンタは、そうは見えない。イイ恋愛、してないわね?」
鏡越しに鋭いシゲオの視線を受け、ギクリとする。
「そんなのかんけ……」
「関係あるのよ! 女子はね、イイ恋をするとキレイになるのよっ!」
「だったら、わたしは女子じゃないんでしょ」
「もうっ! その減らず口だけは健在ね!」
「どうも」
「とにかく……今日できるのはココまで。続きは明日。さ、片付けるわよ」
シゲオは、働けとばかりに、わたしにモップを押し付けた。
三十分ほどですべての片づけを終え、シゲオと共にサロンを出る。
連絡先も交換したし、これからシゲオは再び京子ママのお店へ戻って仕事をするというので、とりあえず「じゃ、また」と立ち去ろうとしたら、うしろ襟を掴まれた。
「待ちなさい。何、帰ろうとしてんのよ? 仕事はこれからよ」
「仕事?」
「お店のスタッフと知り合ういい機会にもなるし、ヘアメイクの参考にもなるから手伝いなさい」
断る選択肢など、最初から提示されていない。
シゲオの助手(下僕ともいう)として再び京子ママのお店へ舞い戻ったわたしは、そこでカメラとはまたちがう「魔法」を目の当たりにした。
シゲオの手にかかると、美女はさらに美しく。
そうではない人も、目の覚めるような美女へと生まれ変わる。
どうしてカメラを持って来なかったのだと後悔したくらい、どの女性も魅力的だった。
だから、わたしもシゲオの手にかかれば、いとも簡単にそうなれるのでは……と思ったのだけれど、「アンタの場合、メイク以前の問題よ!」と一喝された。
「今夜もありがとうね! ジョージ!」
開店五分前、遅刻ギリギリでやって来た最後のスタッフに投げキッスを貰い、ようやく助手の仕事は終了。
へとへとになって、「ゴハンくらい食べさせてあげるわ」と言うシゲオの家へ向かった。