意地悪な副社長との素直な恋の始め方
シルクコットン素材のネクタイは、ネイビーとホワイトのヘリンボーン柄で涼しげだ。
でも、プレーンノットはダメ。
ネクタイは、セミウィンザーノット。朔哉には、正統派の装いが一番似合う。
「ぜんぜん、口説かれた気がしないんだけど」
「食事をしたし、キスもしただろ」
「一回だけだし。食事とキスの効果も台無しになることばっかり言われた気がするんだけど」
「悪かったと謝っただろ」
「口だけね」
「……何が言いたいんだ」
解いたネクタイをセミウィンザーノットに結び直し、きゅっと締め上げる。
それから、うさんくさい笑みの似合うイケメン副社長ではなく、ワガママな暴君っぷりがにじみ出ている不機嫌な顔をした、意地悪で、でもわたしが好きなひとの顔を見上げる。
知りたいのは、芽依と何があったか、何がなかったかじゃない。
朔哉の気持ちと……わたしの気持ちだ。
「観覧車」
「……観覧車?」
「一緒に観覧車に乗ってくれたら、どんな言い訳でも聞くし、どんな契約書にもサインする」
朔哉の顔色が変わる。
驚きから喜びへ。喜びから不安へ。そして、不安からわずかな期待に染まる。
「明日の夜なら、時間を作れる」
「じゃあ、十九時……ううん、完全に暗くなってからの方が夜景もキレイに見えると思うから、二十時。場所は……」
「知ってる」
「ズルして、月子さんから聞いたんでしょ?」
「……ズルじゃない。協力してもらっただけだ」
「もし、仕事の都合でダメなら、リスケして」
「しない。絶対に約束は守る」
「絶対なんて、簡単に言わない方がいいと思うけど?」
「簡単じゃない」