意地悪な副社長との素直な恋の始め方
手を振り、去っていく彼女を泣きながら見送っていると横からポケットティッシュがにゅっと現れた。
差し出したのは、わたしとはちがって、きちんとプレスされた黒いハンカチで涙を拭うシゲオだ。
「もー、泣かせないでちょうだい。偲月! 明日は、超イケメンのカット予約が入ってるんだから! 目が腫れたらどうしてくれるの!」
「シゲオ……」
「どうしようもない性悪女かと思っていたけど、いい子じゃないの。わたしが朔哉なら、あっちを選ぶわ」
「ちょっと!」
「冗談よ」
「冗談に聞こえなかった」
「あら。本音って、意外とわかっちゃうものなのね」
「…………」
「誰もが、見る目があるわけじゃないだろ。おまえと朔哉は、割れ鍋に綴じ蓋でちょうどいんだよ」
シゲオの差し出したティッシュを開け、一枚取り出して強引にわたしの鼻を拭った流星は「いい歳して鼻水垂らして泣くなよ」と呆れ顔だ。
「泣いたら鼻水出るのが普通でしょ?」
「それを我慢するのが、女子よ!」
シゲオの無茶の要求には、とても応えられない。
「無理」
「無理でも、もっとマシな泣き方覚えろよ……ん? 手に持ってるの何だ? 朔哉と『Claire』のインタビューか」
わたしの持っていたファイルを取り上げた流星は、すぐにその中身を言い当てた。
「偲月、おまえフランス語読めんのか?」
「読めない。芽依が、これを読めば朔哉の気持ちがわかるって……。日本語の記事とは内容がちがうらしくて」
「ま、読めなきゃ何もわからねーな」
「う……」
「ハジメが訳してあげたらどお?」
シゲオの言葉に、流星はしかめ面になる。
「フランス語は性に合わねーんだよ」
「わたしも無理ね。偲月、GoXXX翻訳で地道に訳せば?」
シゲオの提案に、目を剝いた。
「三ページもあるのにっ!? 無理!」