意地悪な副社長との素直な恋の始め方
「まだ社外秘だろうから、信用できる人間じゃないとおいそれと翻訳も頼めねーしな……。んー、透子なら、ある程度訳せるかもな」
「ほんとっ!?」
「徹夜で、屍になってなければだけど」
早速流星が電話してくれたところ、老舗ケーキ屋のシュークリームと交換で引き受けてくれることになった。
「ありがとう、流星さん」
「感謝の気持ちがあるなら、結婚しようぜ?」
「しない」
「即答かよ! 朔哉より、俺の方がいい男だろ」
「でも、しない」
「おまえ、見る目ねーな」
「うん。でも、流星さんがいい人だってことはわかってる」
「だから、それヤメロ!」
「でも、本当にいい人だから」
「おい!」
流星の口調も言葉も乱暴だが、その目は笑っているし、わたしと朔哉が復縁のきっかけをつかんだことを喜んでくれているのはわかっている。
祭壇の前で彼が言おうとしていたのは、プロポーズの言葉などではないし、本当にキスをする気もなかったのだろう。
あのひと幕は、朔哉をわざとチャペルに呼びつけて、お芝居したんだと思う。
そうでなければ、あんな絶妙なタイミングで朔哉が現れるはずもないし、朔哉にわたしと彼がイチャイチャしている写真をわざわざ送りつける必要性を感じない。
「ハジメがいい人なのは、誰もがよく知ってるわよ。いい人すぎて、なかなか本命に告白できないこともね!」
「おい! 本命ってなんだよ、ジョージ。俺にはそんなヤツいない……」
「ああん? どの口がそんなたわけたこと言ってるのよ? いい加減にしないと、本人の前でバラすわよ?」
「……それは……勘弁してほしい」
流星をあっさり言い込めたシゲオは、わたしの両肩をがしっと掴み、真剣な表情で命じる。
「偲月。わかってると思うけど、これがラストチャンスと思って頑張りなさいよ? 芽依の妨害もなくなったし。朔哉もだいぶ反省しているみたいだし。その記事で、彼の気持ちもわかるだろうし……。観覧車デートで、キスしまくって、今度こそバシッと決めなさい! いいわね?」
「む」
「何つった、いま?」
観覧車デートはともかく、キスしまくるなんて無理だと言いたかったが、シゲオは怒らせると怖い。
「な、何も」
「偲月、返事は?」
今度こそ、という思いはわたしにもある。
でも、ここぞという時に何かが起きる星の下に生まれついた自覚もある。
だから、
「……ガンバリマス」
そう言うしかなかった。