意地悪な副社長との素直な恋の始め方
誕生日に逃げられた、と聞いてドキッとした。
思い当たるのはあの日――わたしの誕生日だ。
彼が言おうとしていたことを聞く、心の余裕があったなら。
過剰反応して逃げ出したりせずに、ちゃんと朔哉がシャワーを終えるのを待っていたら。
彼が用意してくれたバースデーケーキを二人で食べていたら。
朔哉は、わたしの誕生日を祝うだけでなく、プロポーズしてくれたのだろうか。
――ええと、逃げられた……つまり、フラれたってことですか?
『まだだ!』
『見栄を張るのはやめなさいな。せっかく作ったドレスが無駄になるかもしれないと、泣きごとを言ってきたくせに』
歯に衣着せぬ質問をするインタビュアーに朔哉が言い返し、それをクレアさんが宥める。
『あの時は、ショックで落ち込んでいたんだ』
『ねえ、信じられる? 朔哉ってば、せっかく彼女のために作ったドレスをオークションにかけると言い出したのよ? まったく、冗談じゃないわ。オークションで落札されて、どこかのコレクターの部屋に飾られるために作ったんじゃないの。着てもらうために、作ったのよ!』
――『Claire』のドレスは、その美しさを眺めるより、着て、動いて、感じてほしい。クレアさんが、常々言っていることですよね?
『その通り。だから、「彼女」に着てもらえないなら、「日本」の花嫁に着てもらおうと思ったの。もちろん、ちょっとデザインを変更したけれど、欧米人より日本人に似合うのはわかっていたし、「YU-KI」の傘下にはブライダル関連企業もある。朔哉なら、わたしの意向を無視することもない』
――夕城副社長の失恋が、日本初上陸のきっかけになったなんて驚きです。こう言っては何ですが……日本の花嫁にとっては、ラッキーでしたね。
『実は、朔哉にとってもラッキーだったのよ? 予定とは大幅にちがったけれど、彼女に着てもらえたんだもの。あれこそ、真のサプライズだったわぁ。思い描いていた通りの人物が、目の前にいるんだもの。しかも、完璧に似合うウエディングドレスを着て。夢でも見ているんじゃないかと思ったわ。撮影中、彼女を見る朔哉の顔は緩み切っていたわね』
――彼女に着てもらえた? しかも、クレアさんもお会いしたということは……もしかして、「彼女」はドレスのモデルを務めた方ですかっ!? 夕城副社長!