意地悪な副社長との素直な恋の始め方
女子力高いシゲオは、料理も得意。
ちゃっちゃと作ってくれたペペロンチーノとシーザーサラダは、とても美味しかった。
それから、自家製漬物やら有機栽培のえだまめなど、ヘルシーなつまみと共に再会を祝す酒盛りを始めて三時間。
もうすぐ日付を跨ごうかという時刻。
猫足ローテーブルには、ビール、ワイン、焼酎などの空になった酒瓶が林立している。
泥酔には至らないが、近況報告という名の暴露大会で、お互いの恋愛事情を喋ってしまうくらいには、酔っていた。
名前と元兄であることは伏せたものの、朔哉との「セフレ」関係を打ち明けたわたしに、シゲオはよほど驚いたらしく、ブツブツ言っている。
「まさか、『セフレ』していたとはね。しかも……高校生の頃からずっと同じ相手となんて。見た目と雰囲気は、ビッチだというのに。とても信じらんないわぁ。ま、いま思えばその頃から、偲月は来る者拒まずじゃなく、来る者拒みまくりになっていたわねぇ……」
「び、ビッチって! だから、セフレはやめたって言ったじゃん!」
ちっとも剝けないピスタチオの殻をこねくりまわしながら反論したが、すぐにグサリと指摘される。
「そのわりには、さっきからスマホ気にしてるじゃないの」
酔ってネジが緩んだわたしの頭は、ついつい、うんともすんとも言わないスマホを見つめてしまう。
関係を断ち切ると自分で決めたくせに、酔った勢いに任せ、これまで絶対にしなかったこと――自分から連絡を取る、なんて血迷ったことをしてしまいそうだ。
たった一日で、もう決意を翻しそうな自分に呆れ、溜息を吐いた途端、つむじに手刀が振り下ろされた。
「やめなさい、溜息は。シアワセが逃げるわよ」
「逃げるようなシアワセ、ないし」
「まったく……悪女キャラなのに一途って、どうなのよ?」
シゲオは、わたしの手からピスタチオ取り上げると、軽々と指で砕き、中身をくれた。
「悪女キャラって……二股とかしたことないし! 男を手玉に取るとかできないし! 単にそう見える顔ってだけでしょぉっ!?」
「あら。悪女顔の自覚はあったのね。しっかし、六年? もはやセフレと言う方が違和感あるわ。腐れ縁を通り越してるでしょ」
「わかってる……都合のいい女扱いされてたって」
自嘲の笑みと共に呟けば、シゲオは呆れたように鼻を鳴らした。
「は? なに言ってんの。そういうことじゃないわよ、まったく……。アンタ、ほんと見た目に反して自分に自信がなくて、ビビリよね」
「ビビリって……そんなことない」
「あるわよ! 偲月はね、いつもわかったフリをして、自分の中だけで完結して、相手の気持ちや考えをちゃんと確かめようとしないでしょ? 高校の時のカレシたちだって、告白されても、別れ話をされても、浮気されても、相手が何を思っているか知ろうとしなかったでしょ?」