意地悪な副社長との素直な恋の始め方
『ノーコメントだ』
『悪あがき。彼女以上に、あのドレスが似合うひとはいない――それが答えになっているわよ』
――今回、お披露目されるカラードレスも、同じ方がモデルを務めると伺っていますが。
『モデルは、もちろん「彼女」よ。わたしがそれ以外のモデルはノーと言ったもの』
――これは……プロポーズ作戦第二弾ですね、夕城副社長! 今度はどんな愛の言葉を用意しているんですか?
『ノーコメント』
『まどろっこしいわねぇ。あの時、わたしに言ったことをそのまま伝えればいいだけなのに』
――クレアさん。わたし……やっぱり、聞いてみたいです。愛の名言集。
『本当にステキな言葉だったのよ。彼の気持ちが伝わる、とてもいいプロポーズ。うっかり、わたしがイエス! って言いそうになったわ』
『クレア! だから、あれはプロポーズじゃないと……』
『露出狂かと思うほど短いスカート、歌舞伎俳優並みに濃い化粧はまったく似合っていない。凶器になりそうな長い爪には、ゴテゴテとした飾りが付いていて、非実用的。口を開けば、日本語とは思えない言葉を話す。どこの惑星の生き物かと思った』
――え? それは……。
『朔哉が、彼女と初めて会った時の印象』
『それは、ものの例えで……』
『本気とは思えないカレシを三か月でとっかえひっかえ。夜遊びもするし、週末はほとんど家にいない。軽い女の典型だと思った。でも』
――でも?
『自分がちょっと触れるだけで動揺して、顔を赤くするのが面白くて、彼女にかまわずにはいられなかった。彼女が、自分に惹かれているのを確かめずには……自分が彼女に惹かれているのを確かめずには、いられなくなった』
――つまり、恋に落ちたんですね?
『彼女は、素直じゃなくて、強がりで。でも、自分に自信がなくて、気が弱い。世慣れているように見えて、純粋で。臆病なくせに、いざとなると大胆。自由で、柔軟で……いつでも予測不能』
――いわゆる小悪魔ですねぇ。
『あれは……そんなカワイイものじゃない』
『彼女が見せる一瞬一瞬の表情が、言葉が、仕草が、いちいち自分の心を揺さぶって、平常心を失わせる――そう言ったじゃないの』
『それは、』