意地悪な副社長との素直な恋の始め方


「う……それは……だって、知ったところで、変わってしまったものが元に戻るとは思えないし。あっちだって本気じゃなかっただろうし」


好きだと言われればそりゃあ、悪い気はしないし、浮気されればムカついた。

でも、周囲から浮かない擬態を維持するのに付き合っていただけだから、熱くなったこともなければ、冷めたこともない。
平日はバイト。休みの日には、デートするよりも、撮影に出かけるのを優先し、一緒にいる時間が少ないと文句を言われたことも数知れず。

クールでドライと言えば聞こえはいいが、ただの酷い女だ。

けれど、相手だってそういうイメージの「わたし」を気に入って、付き合っていただけのこと。お互いさまだと思うのは、傲慢だろうか。


「アンタねぇ……そんなんだから、セフレにしかなれないのよ。ま、もう終わったというんなら、いまさらグダグダ言ってもしかたないけどね」


手厳しい意見を述べたシゲオは、ゴクゴクと喉を鳴らして、缶チューハイを飲み干した。


「で、これからどうするつもりなの?」

「どうするって……」


全財産を失うまでは、仕事を辞め、朔哉との繋がりを完璧に断つつもりだった。

しかし、いくらなんでも無一文になったいま、職を失うのは無謀だろう。
たとえ、朔哉と顔を合わせることが気まずく、居心地の悪い思いをしようとも、しばらくは耐えるしかない。


「しばらくダブルワークして、お金を貯める。それから……」

「それから?」

「それから……転職、しようかなと思う」

「転職ぅ? いまの仕事、楽しくないの? やりがいがないの?」

「そういう、わけじゃないけど」

「っていうか、アンタ『カメラ』もうやってないの?」

「えっ」


思わぬシゲオの言葉に驚いた。

上手く隠し通せたと思っていた高校生活。
まさかバレていたなんて。

高校の遊び仲間たちのほとんどが、専門学校か就職という進路だったので、あの高校から同じ大学へ進学した生徒は、わたしひとりだったはず……。


「ど、どうして、知って……」

「高三の夏にキャンプ行ったでしょう? あの時、アンタが延々と朝焼けの海を撮ってるのを目撃したのよ」

「…………」

「ちょっとびっくりしたけど、思い当たる節はあったから、納得したわ」

「思い当たる節?」

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