意地悪な副社長との素直な恋の始め方
見た目より柔らかい髪を梳きながら、ドライヤーを当てる。
スマホを操作していた朔哉は、今度はタブレットを手に高級レストランと思われる画像をチェックし始めた。
「それ、もしかして……」
「ああ。『ザ・クラシック』のレストランだ。総料理長に、照明がイメージとちがうと言われ、急遽取り替えることになったんだ」
「照明?」
「明るすぎても、暗すぎても、リラックスして食事を楽しめないし、料理の魅力も伝わらない。写真でも、照明――ライティングは重要だろう?」
「うん」
どう見えるかは、どう感じるかに直結している。
料理は、舌で、匂いで味わうだけでなく、見て味わう。
彩りやバランスもすべて計算されているのは、どう見せたいか考えられているということでもある。
「今回のリニューアルで、価格帯は以前より低く設定するが、『ザ・クラシック』の持ち味は、やっぱり非日常、特別感にある。ただの宿泊場所ではない、特別な日や自分へのご褒美として、贅沢な時間を過ごす場所として、利用してほしいんだ。最高のものを提供するという姿勢なくしては、ゲストの期待には応えられない。だから、もともと人気があったブライダルにも力を入れる。『ザ・クラシック』の雰囲気は、『Claire』のドレスとマッチするし、話題性としても相乗効果を期待できる」
「芽依も、『ザ・クラシック』のオープニングスタッフなんだってね?」
朔哉は、一瞬ためらう気配を見せたものの、大きく頷いた。
「ああ。軌道に乗るまで、芽依には現場スタッフのトレーニングとサポートに入ってもらう。芽依は、むこうにいる間、現場での経験を積むだけでなく、多くのホテルを視察している。国内外のやり方を上手くミックスして、『ザ・クラシック』にあったサービスを提案できるはずだ」
「来週のプレオープンもサポートに入るって……わたしが緊張しないよう、ステキな式にしてくれるって言ってた」
「ああ。ブライダル部門にも、いろいろ提案しているはずだ」
「芽依は、スゴイよね。やりたい仕事に就いて、勉強して、経験も積んで……」
「偲月だって、いまはやりたい仕事をしているだろ」
「そうだけど、始めたばっかりだし」
「芽依と偲月はちがう」
否定の意味でいったわけではないとわかっていても、思わず朔哉の髪を梳く手が止まる。
「……代わる」
「え?」
「今度は、俺が偲月の髪を乾かす」
「でも、きゃっ」