意地悪な副社長との素直な恋の始め方
「スマホで写真撮るとき、アンタはやたら角度とか遠近とかうるさくて、絶対適当に撮ることはなかったもの。てっきり、そっちの道へ進むんだと思っていたのに、大学へ進学するって言うから謎だった」
「そ、れは……だって、カメラで食べて行けるほどの才能なんて、ないし……」
叶わない夢を追いかけるほど子どもじゃないと言おうとしたら、ビシッとシゲオが指を突き付けてきた。
「ほら! それよ! そういうところっ! コンテストとか応募したことあるの? ないでしょ? フォトグラファーじゃなくても『写真』に携わる仕事はほかにもある。探してみた? してないでしょ? アンタは、可能性を探ることすらしない。石橋を叩いて渡るどころか、石橋そのものを回避してるのよ!」
「そ、そんなこと……」
ない、とは言えなかった。
写真を撮るのが、好きだった。
でも、写真家――フォトグラファーになるなんて、途方もない夢は抱けなかった。
大学のサークルメンバーたちは、コンテストに応募したり、インスタなどのSNSで作品を公開したりしていたが、わたしはと言えば、インスタはやっているけれど非公開。作品を発表するのはサークルが学祭の時に行う展示会のみ。
何故かわたしの作品を気に入って、毎年買ってくれる人がいたので、サークルの資金集めには貢献できていたけれど、積極的とは程遠い活動ぶりだった。
だから、就職活動の時も、端から写真関連の仕事は視野に入れていなかった。
真面目に働くことが評価され、きちんとお給料がもらえれば、それでよかった。
しかし、世の中、そんなに甘くない。
仕事に「楽しさ」や「やりがい」は求めていなくて、そんな熱意のなさが伝わって、就活は壊滅的だったのだと思う。
「偲月は、見た目とちがって頭も悪くないし、コミュニケーション能力も高いから、どんな仕事でもある程度こなせるでしょうね。根は真面目だし、信頼を得るのも難しくないと思うわ。でもね、やりがいとか、喜びとかはある? 寝食を忘れて打ち込むほど、夢中になれる?」
「やりがいって、そんなの……誰もが望んだ仕事に就けるわけじゃないし」
「確かに、誰もが目指した会社や業界で働けるわけじゃないわ。でも、アンタは挑戦する前から勝負を降りている。諦める必要があるかどうかを確かめる前から、諦めている。恋愛も同じ。ねえ、本当に『セフレ』で満足してたの?」
「そ、れは……」