意地悪な副社長との素直な恋の始め方
疲れ果て、投げ出したわたしの四肢を絡め取り、包み込む温もりに擦り寄って、心地よい眠りに落ちる寸前、ふと思った。
「……シゲオが言ってたの、本当だった」
「シゲオ? 何を言われたんだ?」
「手っ取り早く、仲直りする方法と……喧嘩したあとだと……そのう……」
「ああ……」
朔哉は、すぐに思い当たったのか、くすりと笑う。
「それを実感するには、毎晩喧嘩しなきゃならないな」
「ヤダ。したくない」
刺激も、変化も、求めていない。
ちょっとした言い合いだって、本当はしたくない。
心穏やかに、甘い日々を過ごしたい。
(……できる気がまったくしないけど)
「仲直りするんだから、別にいいだろ。偲月をからかうのは楽しいし……怒ってる偲月には、そそられるんだ」
「変態」
「偲月が望むなら、完璧な紳士になって、砂糖菓子のように甘い言葉を吐き続け、お姫様のように過保護に扱うこともできる。でも、それじゃ偲月が満足できないだろ。偲月が好きになったのは、『エセイケメン』の俺じゃない」
(そうだけど! 甘々モードの朔哉に、嬉しさより戸惑いを覚えるけど! でも……)
背後から抱きしめられているので顔は見えないが、『あの』笑みを浮かべているにちがいない朔哉に言いたい。
「……意地悪」