意地悪な副社長との素直な恋の始め方
話が見えず、首を傾げるわたしに、シゲオは呆れ顔だ。
「ほんっとーに、あのプレゼン何一つ聞いてなかったのね……そのあとも、ちゃんと確かめていない、と……」
聞き逃したプレゼンは、正式な契約を結ぶとき、朔哉がざっと説明してくれた。
が、スーツ姿で「副社長」の顔をして、「エセイケメン」ぶりを発揮している朔哉もキライじゃないな……なんてことをぼんやり考えている間に、話が終わっていた。
「す、スミマセン……」
「今回の模擬挙式、模擬披露宴の様子は、それぞれの媒体に合わせて編集したものを展開する予定よ。『ザ・クラシック』の公式HP、動画投稿サイト、テレビCMにも」
「ど、どうしよ……」
ただでさえ緊張しているというのに、自分の姿が全国、全世界に拡散されるかと思うと足が震える。
「いまさらどうにもできないでしょ。やるのみ!」
「そ、そうだけど!」
「今日のゲストには、月子さんと夕城社長もこっそり含まれているし、朔哉ってば、二人の復縁が芸能ニュースで流れるのも、宣伝に利用するつもりなんじゃないかしら?」
「え! 月子さんも来てるの?」
「もらった台本にも書いてあったでしょ? ほら」
シゲオが差し出したのは、今日の大まかな流れが書かれた進行表。
そこにある「模擬挙式」の文字の横、備考に「CM用動画撮影:流星天監督」と書かれている。
そして、「サプライズゲスト:新井月子」とも。
(月子さん……だから、昨日のメッセージで『明日、楽しみにしてるわね』なんて言ってたのか……)
「いまのアンタなら、大丈夫よ。花嫁らしく、幸せな顔してるもの。無事収まるべきところに収まって、何より。超絶不幸な顔をした花嫁なんて、誰も見たくないものね」
「うん……シゲオのアドバイスのおかげ。ありがとう」
無事、朔哉と仲直りしたことは、いの一番にシゲオに報告した。
あの、仲直りの方法の実効性についても。
「いいのよ、別に。他人の恋愛話ほど、面白いドラマはないもの。しかも、アンタの場合、放って置いても海外ドラマもびっくりなほどアレコレ事件が勃発して、飽きさせないんだから」
「……娯楽を提供できて、光栄です」
「まあ、この先は何事もないまま、ハッピーエンドのゴールを迎えてほしいところだけど……あら、誰か来たわね。はぁーい、どうぞー」
ノックする音がして、シゲオがドアを開けに行く。
座りっぱなしだったので、ちょっと立って歩き回ろうとした時、聞き覚えのある着信音に呼ばれた。
(誰だろ?)
場合によっては、後回しにしなくてはならないが、まだ挙式の開始まで三十分はある。
鞄からスマホを取り出し、架けて来た相手の名前を見て首を傾げた。
(流星さん?)