意地悪な副社長との素直な恋の始め方

一応、予定では誓いのキスをすることになっていた。

事前の打ち合わせでは、頬にするということで話がついていたが、朔哉にそれが伝わっているかどうかわからない。
向かい合って見上げる顔は、いかにも花婿らしく微笑んでいるから、何を考えているのか読み取れない。


(いや、別に、どこにしようといんだけど。キスされたことのない場所の方が少ないくらいだけど。……でも、大勢のひとに見られていると思うと……恥ずかしいんだけどっ!)


早くやっちゃって! という気持ちに駆られ、ソワソワして目を逸らしたくなった時、軽くウエストに手が添えられて、少し身を屈めた朔哉の唇が頬に触れた。

常識的で、慎ましやかなキスだ。

さすがに、「副社長」としての立場を忘れることはなかったらしい、と胸を撫で下ろし、微笑みかけた瞬間、ふと朔哉の顔に意地の悪い笑みが浮かんだ。


(え! な、何する気……っ!)


ぐいっと腰を引き寄せられ、反り気味になった姿勢のまま、唇に降って来たキスを受け止めた。

舌を入れられるようなことはなかったけれど、啄むようなバードキスを何度もされる。

牧師のわざとらしい咳払いで、ようやく解放されたものの、スマホを構え、ニヤニヤしながらこちらを見ているゲストたち(ほぼ関係者だけれど)を目の当たりにして、とてつもない恥ずかしさに教われた。

これが仕事だと言うことも忘れ、たぶん真っ赤になっているであろう顏で朔哉を睨みつけると、してやったりという顔でまたキスをされる。


(なにを……何を考えているのよぉぉぉっ!)

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