意地悪な副社長との素直な恋の始め方
そんなこんなで、いささかバタバタした状態で始まった新婚生活。
新居はのんびり探せばいいと、わたしたちは取り敢えず朔哉の部屋で暮らすことにした。
お互いに忙しくて、すれ違いの日々が続いていたが、ほぼ一か月ぶりに連休が重なった連休初日の今日は、一日中家に――正確に言えば、ほぼベッドの上で過ごしていた。
が、時刻はすでに午後三時。いい加減お腹が空いて、起き出す。
リビングは、怪我をした朔哉と一緒に住んでいた頃とほとんど変わっていない。
唯一ちがうのは、キャビネットの上、壁に架けられた大きな三つのパネルとその下にある一風変わったリップスティック型のトロフィー。
あの、メイクをテーマにしたコンテストで、大賞は逃がしたものの、嬉しいことに奨励賞を受賞した。
メイクをするシゲオの真剣な表情、メイクの後のアイさん、そして、ちょっとあざとくコンテストを開催している化粧品会社のアイシャドーとリップ製品をぎっしり並べたもの。
その三つにシゲオの手が写り込むよう撮影し、よく見れば連作とわかる形で投稿した作品は、アート寄りのメイクを撮ったインパクトの強い写真に埋もれてしまうかと思ったが、結構な数の読者票をいただけた。
京子ママのお店のスタッフやサヤちゃん、シゲオがSNSで宣伝してくれたのは、かなり大きい助けになったと思う。
おかげで、わたしのインスタグラムを気に入って、応援してくれるひとも増えたし、コンテストを開催した化粧品会社からはモデルとしてのオファーもいただいた。
ちなみに、モデルを務めてくれたシゲオは、現在世界中を飛び回る生活を送っていて、なかなか女子会ができずにいる。
わたしのブライダルメイクをしたのがきっかけで、クレアさんから『Claire』のファッションショーを手伝ってみないかと声をかけられたのだ。
秋冬コレクションのショーに携わったシゲオは、そこで出会ったメイクアップアーティストに弟子入りした。
彼の片腕に、いつかは彼の恋人になれる日を夢見て、日々がんばっている。
わたしはと言えば……。
いまは、テーマが自由ないくつかのコンテストに応募するために、撮りためた写真をコウちゃんに見てもらい、選別しているところだ。
それが終わったら、ナツと福山さんの結婚式で友人代表兼カメラマンを務める予定だ。
少しずつ、本当に少しずつだけれど、前に進んでいる。