意地悪な副社長との素直な恋の始め方
「いらっしゃいませ、佐々木さま」
「こんにちは! いやー、もう春ですねぇ」
「そうですね。お花見にはもう行きました?」
「残念ながら、残業帰りの夜桜だけですよ」
大手家具メーカーの営業マンを迎え、家の近くの公園がお花見の穴場だ、花粉症が辛い、などという世間話を交わしつつ、ホテル部門のデスクへ連絡する。
「明槻さん、これ、取引先で貰ったんですが、春の新商品だそうです。よかったら、皆さんでどうぞ」
来客用のセキュリティカードを渡したら、片手では余る大きさの瓶詰にされた金平糖をくれた。
瓶の口には、桜の花びらを模したタグが赤い紐で括りつけられている。
「桜色……この季節にぴったりですね。香りも、ほんのり桜? ちょっとしたお花見気分になれますね」
「季節感のある商品がウリの店なんですよ」
「かわいー!」
喜ぶサヤちゃんが、さっそくひと粒頬張った。
本職の受付嬢なら絶対にしないだろうけれど、臨時だということで大目に見てほしい。
(いい顔)
緩んだ頬にキラキラした瞳。
生き生きしたサヤちゃんの表情は、とても魅力的だった。
思わず頭の中でシャッターを切る。
「お気遣い、ありがとうございます」
「いえ、取引先の宣伝も兼ねてますから。今度はちがう味を持ってきますね」