意地悪な副社長との素直な恋の始め方
イメチェンの理由

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「偲月ちゃん……ほんと、イメージ変わったね」


配達された郵便物の仕分けをしているわたしの横で、黙々と管理簿に授受記録を記入していたサヤちゃんが、しみじみとした口調で呟いた。


「そう?」

「いまの偲月ちゃんが受付にいたら、お菓子なんかじゃなく、それこそ花束持って現れる人が続出すると思う」

「ちょっと気合入れて化粧して、きちんとした恰好しているだけでしょ」

「でも、すごく似合ってるもん。それこそ、副社長の秘書とかできちゃいそう……」

「あのね、サヤちゃん。三流大学出身で、何の取り柄もないわたしが秘書なんか務まるわけないでしょ?」


ホテルから裸足で逃げ出し、全財産を持ち逃げされるという目に遭い、人生初の水商売に片足を突っ込むという怒涛の週末を過ごして迎えた月曜日。

シゲオの厳しい指導とダメ出しの嵐を潜り抜け、オフィスに相応しいフルメイクを施してパリッとしたスーツに身を包み、久しぶりに七センチヒールのパンプスを履いて出社した。

待っていたのは、同僚や上司の驚きの視線と受付お手伝い終了、そして再び副社長が海外へ出張に行ったというお知らせだった。

受付のヘルプ終了は、本職の受付嬢たちが復活したから。
朔哉の予定よりも早い帰国は、視察の合間に立ち寄っただけ。あの日の真夜中には再び日本を離れ、本日金曜日、当初の予定どおり、明後日の入社式に間に合うよう帰国する――はずだ。

胸は痛み、気持ちはまだまだグラついている。

しかし、全財産を失い、一文無しだという状況が、泣き暮らすことを許してくれなかった。
シゲオに泣き腫らした顔をさらそうものなら、土下座したくなるほどマジ切れされるから、というのもある。


(ま、着拒してるし、帰国したところで会うこともないし……)

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