意地悪な副社長との素直な恋の始め方
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病院の帰り、タクシーの中で茫然としながら、まだ膨らみがよくわからないお腹をそっと擦る。


「妊娠六週目って……ぜんぜん、気づかなかった」

「あまり症状が出ない妊婦もいるって言ってただろ」


妊娠に気づかず、赤ちゃんを危険にさらしてしまうこともあるらしいから、朔哉が気づいてくれて、本当によかったと思う。

わたしひとりだったなら、ちょっと太ったからダイエットしよう……なんて、軽々しく考えていたかもしれない。


「まずは、偲月が着るマタニティウエア。それから、ベビー用品。いろいろ揃えなきゃならないものがあるな」

「ベビー用品は、まだ早いんじゃない?」

「手作りのものだと、注文してから出来上がるまで時間がかかる」

「え。何を頼む気?」

「ベビーベッド、椅子、それから……」


組み立てる、ではなく、一から作ろうとするとは……。


(さすがセレブ。発想がちがう)

「でも、椅子に座れるようになるのは生まれてから、かなり先の話……」

「いつか使うんだから、買っておいてもいいだろ」

「邪魔になるでしょ」

「広い家に引っ越せばいい。庭も必要だ」

(狭いなりに工夫する……のではなく、狭ければ広い家に引っ越せばいい、と。いや、もう、ほんとなんか……抵抗する気も失せるし)


どんどん先走る朔哉に、何を言っても無駄なようだと諦める。
貰ったエコー写真を見つめるその横顔は、緩みっぱなしだ。

別に、朔哉本人から子どもがキライだと聞いたわけじゃないし、子作りは計画的にしたいとか話し合ったわけじゃないけれど、何となく二人きりの生活がいいのかな、なんて思っていた。

まさかこんなに喜ぶなんて、思ってもみなかった。


「ねえ、朔哉。嬉しい?」


顔を上げた朔哉は、「コイツ何言ってんだ」と言いたげな表情でわたしを見つめている。


(そ、そんな顔しなくても……)

「偲月には、いまの俺がどう見えるんだ?」

「え。すっごく嬉しそうに見える」

「だったら、何でわざわざ訊くんだ!」

「いや、ほら、勘違いだったらいけないと思って」

「……勘違い? 子どもが出来て嬉しくないとでもっ!?」

「いや、だから、ちょっと訊いてみたかっただけで。ねえ、そんなに怒らないでよ。で、どうなの? 嬉しい?」


わたしを見つめる顔が、だんだん赤くなっていく。

耐えきれないと言うように口元を手で覆い、俯いた朔哉がぼそっと呟く。


「……嬉しすぎて、ちょっとおかしくなってる」

「そうだ、ねっ……!?」


珍しくカワイイ朔哉を目撃し、ニヤけた顔をガシッと両手で挟まれた。

何をする気かなんて、聞く間もなく、抵抗する間もなく、熱烈なキスをお見舞いされる。

嬉しすぎて、ちょっとおかしくなっている朔哉は、ここがタクシーの中で、もうタクシーはマンションの前に着いていて、運転手がお会計を待っている状況などおかまいなしだ。


(素直な朔哉もいいけれど……)


素直すぎるのも、


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