意地悪な副社長との素直な恋の始め方
おまけ:正しい妻の扱い方
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春先ほどではないが、年末のクリスマス商戦目前の今時期、会議に調査報告、競合他社と被っている企画の変更……忙しさに拍車がかかるのは毎年のことだ。
連日、帰宅時間は日付の変わる直前という状況にも慣れていた。
しかし、今年は「どうしても」という場合以外、接待や会議は昼間に設定し、なるべく早い時間に帰るようにしている。
新婚で、しかも妻が身重となれば、当然の行動だ。
だが、呼び出した相手が、結婚式を控えた大学時代からの友人。
その結婚式でスピーチを頼まれているとなれば、話は別だった。
急を要する仕事だけを片付け、待ち合わせ場所に到着したのは約束の時間の五分前。
すでに呼び出した相手はダイニングバーのカウンターにいた。
「悪い、待たせた」
「いや、大丈夫だ。結婚式で配る予定のアプリ作ってたから」
顔を上げた福山の手元には、ノートパソコンがある。
大学在学中にゲームアプリを開発し、ひとりでIT関連のベンチャー企業を立ち上げた福山も、いまでは十数名の従業員を抱える社長だ。
生まれつき、人心掌握術に長けているのか。
気さくでお節介、おひとよしな彼の人柄のせいか。
彼のもとに集まって来るのは、一癖も二癖もあるワケアリばかり。
激務で心身ともにボロボロになって大手企業を辞めた営業担当。
柔軟な働き方を求めるシングルファザーのプログラマー。
VRゲームに生きるゲームイラストレーター。
経験は足りないが意欲旺盛なインターン。
美人すぎて女同士の争いに巻き込まれるのにうんざりしていた広報担当。
きっちりしていないと落ち着かないという経理担当。
マルチタスクをこなせるが、突出した能力がないと嘆く総務担当……等々。
少数精鋭だと福山は笑っているが、彼でなくては束ねられない顔ぶれだ。
「何のアプリだ?」
「ちょっとしたお遊びのアプリだよ。プロフィールを入力すると自分と相手のタイプ、相性がわかるようになっていて……」
ディスプレイを覗き込めば、容姿、身長、体重、好物や性格、口癖などかなり細かな項目が並んでいる。
「商用にリリースするなら、質問はもっと単純化するけど、式に来てくれたひとへのお土産を兼ねたお遊びだからさ。カレシとか、家族とかと楽しんでもらえれば十分だし」
「面白そうだな」
「偲月ちゃんと、試してみろよ」
「ああ」
QRコードを読み取って、ほぼ完成しているというアプリをスマホにダウンロードする。
夢見がちなところのない偲月は、占いを信じることなどなさそうだが、ちょっとした気分転換にはなるだろう。