意地悪な副社長との素直な恋の始め方
「で、偲月ちゃんの様子は?」
「動き回れるから、写真を撮ったり撮られたり、これまでとあまり変わらない生活をしてる」
「そっかー。妊婦さんの体調はひとそれぞれだって聞いてたけど、本当にうちの奥さんとはぜんぜんちがうんだなぁ」
「ちがうのは当然だろ。妊娠したのはそっちが先なんだから」
偲月の元ルームメイトで友人のナツ、彼女が妊娠したため先に入籍したが、後追いで結婚式をするつもりだと福山に聞かされた時には、かなり驚いた。
「そういうことじゃなくって。偲月ちゃん、寝込んだりしてないんだろ?」
「ああ。いたって普通。健康体だ。時々、妊娠していることを忘れているんじゃないかと思うくらい、変わりない」
「ナツは、どうもつわりが重いタイプらしくってさ。いまはすっかり食欲を取り戻したけど、一時期は点滴しなきゃならないほど何も食べられなかったんだ。本人が一番辛いのはわかってるんだけど、傍にいても何もしてあげられないのが辛かったよ……。子どもは欲しいけどさ、奥さんにばっかり負担させているようで申し訳ない」
「その気持ち、わからなくもないが……自分にできる限りのことをするしかないだろ」
「出産も立ち会うつもりなんだけど、俺が耐えられるか心配」
「…………」
弱音を吐く福山に、経験者でもないのに偉そうなことは言えない。
できれば、自分としても我が子誕生の瞬間に立ち会いたいとは思っているが、アレコレ調べてみると分娩室で気分が悪くなる夫というのも少なからずいるようだ。
励ますつもりが、邪魔になってしまうのは本意ではない。
「まあ、こんな風にアレコレ悩んだことも、無事に生まれてくれた瞬間から、いい思い出に変わるのかもしれないけど」
そう呟く福山の横顔は、弱音を吐いているわりには幸せそうで、たぶんそれは自分も同じなのだろうと思うと、何とも居たたまれない気恥ずかしさを感じる。