意地悪な副社長との素直な恋の始め方
「渡してはみるが、きっと受け取らないと思うぞ?」
「その時は、同じく少し早すぎる出産祝いだと丸め込んでくれ!」
大人しく丸め込まれるような偲月ではないと思ったが、拝み倒されて渋々頷いた。
「わかった」
「よろしく頼む。ナツはさ、お金をきちんと返すことで、偲月ちゃんと貸し借りなしで、相談し合える友だちになりたいって思ってるんだよ。偲月ちゃん、以前はおまえとのこと、ナツにも言ってなかったみたいでさ。ナツは何でも話してたのに、何も教えてくれなかったのが結構ショックだったみたいで……」
「それは……いくら友だちでも、セフレがいるなんて言えないだろ」
「うん。明らかに、朔哉のせいだけどな」
「……俺は、セフレだとは思ってなかった」
「そう思っていなくても、相手にそう思わせたってことは、おまえのせいなんだよ」
「わかってる」
偲月とは、お互い素直な気持ちを伝えられず、長い間セフレのような関係に陥っていた。
その原因は、自分にあると十分わかっている。
偲月との出会いによって、自分は芽依を「女」として見られないのだと自覚した。
それが、罪悪感となり、親同士の離婚で「家族」でなくなってからも、偲月を「恋人」という位置に据えるのをためらわせた。
そんな俺の態度が、偲月に素直な気持ちを言えなくさせたのだ。
福山の妻となったナツの駆け落ち騒動に巻き込まれていなかったなら、あのままの関係だったかもしれない。
いや、それどころか、見限られ、完璧に偲月の人生から削除されていたかもしれない。