意地悪な副社長との素直な恋の始め方


「ナツが言ってたけど、偲月ちゃんは自立心旺盛で、我慢強くて甘えるのが下手だ。初めての妊娠で、不安に思うこともたくさんあるだろうけど、おまえが忙しかったり、少しでも素っ気ない態度を取れば、きっと言えなくなる。さんざんやらかしたから、十分身に染みてわかっているだろうけど……傍にいて、ちゃんとサポートしろよ?」

「言われなくともそうする」


さすがルームメイトだ。偲月のことをよくわかっている。

母親と二人暮らし、その母親もあまり家庭的なタイプではなかったせいで、偲月はひとりで何でもやってしまおうとするところがあった。

いかにも家事などできなさそうな外見をしているが、生活力は俺なんかより遥かに高い。家事は万能、家計もきちんと管理している。神経質ではないが、部屋はいつでも片づいていて、冷蔵庫で食材が腐ることもない。
食事は、事前にリクエストすれば、ちゃんと応えてくれる。

仕事も、要領がよく呑み込みが早かった。所属していた総務部では、かなり重宝されていたと聞いている。

本人が思っている以上に、デキる女なのだ。

が、自分に自信がなくて、プレッシャーに弱い。争いごとを好まず、当たり障りのない付き合いから先へ踏み込むには、結構時間がかかる。

かといって、従順で気が弱い……というわけでもなく、決断したら即行動する強さも持ち合わせている。

そして時々、元ギャルの片鱗を見せてブチ切れる。

偲月は、意外性の塊だ。
予測不能の言動に、いつまでもハラハラドキドキさせられるのは確定だ。

飽きることは一生ないだろう。

彼女にも。
彼女と共に生きる自分にも。


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