意地悪な副社長との素直な恋の始め方
「どうせ、オヤジたちは頼まなくても孫の顔見たさに、あれこれ手を出そうとするはずだ。遠慮することなんかない。ほかに、気になることは?」
「朔哉は……ないの? その、不満とか。占いでも言ってたでしょ。共通点はどこにもありませんって……」
なぜそこに戻る! と思ったが、偲月の不安を取り除かなくては、こちらが落ち着けない。
視線をさまよわせる偲月の顔を両手で挟み、しっかりと固定する。
「共通点がないからこそ、上手くいくんだと俺は思ってる」
「……どうして?」
「同じものを同じようにしか見られないなら、そこには一つの可能性しか生まれない。でも、同じものをちがうように見られる人間と一緒なら、二つの可能性が生まれるし、その方が世界が広がる」
訪れた国の数、出会った人の数は、偲月に比べて俺の方が断然多い。
偲月が経験したことのないようなことも、経験している。
でも、だから偲月よりも優れた人間だということにはならないし、偲月が知っていて俺が知らないことは山ほどある。
偲月が持っていて、俺が持っていないものもある。
「俺には、偲月のような写真は撮れないし、偲月には俺のように腹黒い策略で取引相手を陥落させることはできない。だからといって、どちらかに価値があって、どちらかが偉いわけじゃないだろ」
「でも……朔哉は、副社長だし」
「偲月だって、フリーで活動するなら社長だ」
「そう、だけど」
「なあ、組木って知ってるか? 木造建築で使われる手法で、釘や金具を一切使わずに木材を継ぐ方法。一見して、まったくちがう形をしているが、組み合わせられると外側からはわからないほどぴたりと嵌り、信じられないくらいの強度を発揮するんだ」
「つまり?」
「ちがう形をしているからこそ、ひとつになって、どんな重荷にも耐えられる。どちらか片方だけでは、成り立たない」