意地悪な副社長との素直な恋の始め方
「そんなの……腕のいい大工さんじゃないと、ぴったりにはならないかもしれないじゃない」
「微調整すればいいだけだ。削ったり、足したりして、ぴったり合うまで時間をかければいい。結婚しているんだから、焦らず、ゆっくり、気が済むまで」
「それでも、合わなかったら?」
「あらゆる手段を使って、合うようにする」
「そんなのむ……」
なおも言い返そうとした口をキスで塞いだ。
偲月は、時々妙に理屈っぽくなるが、それはつい流されてしまいそうになるのを何とか踏み止まろうとしているから。
それがわかっていて、有効活用しない手はない。
優しく触れ、啄み、開いた唇から舌を差し入れる。
強張っていた偲月の身体から力が抜け、ネクタイを握りしめていた手が離れて、背中に回された。
たっぷり五分はキスをしていただろうか。
「……無理じゃないだろ?」
「うん」
ほんのり赤くなった頬と潤んだ瞳、濡れた唇が艶めかしい。
このまま押し倒したいところだが、偲月の心と体が安定するまでは、我慢だ。
すっかりリラックスした偲月をベッドまで運び、シャワーを浴びる。
急ぎ返信が必要なメールがないことを確認し、ベッドへ潜り込んだら、こちらに背を向けていた偲月がいきなり振り返った。
「寝てなかったのか?」
「月子さんに、つわりのこととかいろいろ訊いてた」
「役に立ったか?」
「うん。明日、コケッコー農園のプリン持って来てくれるって!」
嬉しそうに笑う偲月は、すっかり元通りだ。
泣いている顔も好きだが、寝る前には笑っている顔を見たい。