意地悪な副社長との素直な恋の始め方
明後日は、妻の――偲月の誕生日だ。
何としても休みを確保したかったのだが、どうしてもスケジュールの調整がつかず、誕生日当日の帰国となってしまった。
定刻通りならば、到着時刻は十七時台。
何とか食事くらいは行けそうな気もするが、天候と空港の混み具合によっては大幅に遅れる可能性もあるため、約束はできない。
不甲斐ないことに、これまで一度も、彼女の誕生日をまともに祝えたためしがなかった。
遥か昔、芽依の誕生日プレゼントを選ぶのを口実にして、偲月が計画したデートに付き合ったのが、唯一それらしいことをした思い出だ。
あの時、ほかの男と遊びに行くと言うのに嫉妬して、彼女をカフェに置き去りにした結果、一昨年結婚するまでの間、誕生日を一緒に過ごしてもらえなかった。
プロポーズするつもりでいたのに、己の不用意な発言のせいで逃げられた(しかも裸足で)一件は、忘れようと思っても忘れられない苦い思い出――大事なことは後回しにしてはいけないという教訓だ。
昨年は、喧嘩もせず、事件も勃発しなかったのだが、今年と同じように海外出張で祝えなかった。
いつか挽回しようと思い続け、結局いまのいままで、かなわずにいる。
(今年に限らず、いまの体制をどうにかしないことには、永遠に偲月の誕生日を祝えないかもしれない……)
父は引退を考えるような年齢ではないが、可能なかぎり母の傍にいたいという理由で、企業買収や業務提携に関わる業務は丸投げされていた。
いくら通信手段が発達しても、実際に現地を見ないことには『体感』できないことは多々ある。
世界各地に散らばる支社を訪問する傍ら、視察を兼ねて新旧含めた競合他社のホテルに滞在しては、買収、またはフランチャイズ契約、業務提携などの可能性を探るのだ。
必然的に海外出張が多くなりがちで、二月、三月は長期出張に出るのが恒例行事のようになっていた。
(仕方がないと言えば仕方がないことだが……)
何かいい解決策はないものか。
ネットサーフィンをしながら考えを巡らせていると、聞き覚えのある声に呼ばれた。
「こんばんは、サクヤ」