意地悪な副社長との素直な恋の始め方
「まさか」
「朔哉は反対かい?」
「反対も何も……芽依が決めることだ」
「もし相談されたら?」
「正直な見解を述べる」
「正直って?」
「来る者拒まず、去るもの追わず。世界中の美女と浮名を流しているが、クズではないようだ、と」
「それ、ほとんどクズだって言ってるようなものだよね?」
童顔のダニエルは、不機嫌顔で眉根を寄せても威圧的には見えない。
「大丈夫だろう。俺も似たようなものだったから」
自分で言うのも何だが、母の血を色濃く受け継いだおかげで、女性に好かれる容姿に生まれつき、父の血を受け継いだおかげで、御曹司という身分も与えられていた。
こちらから何かしなくても、蜜に群がる蟻のように女性が寄って来る。
そんな人生を歩んでいたので、まともな恋愛はしたことがなかった。
特に大学生の頃は――偲月とセフレまがいの関係を始めるまでは、芽依との関係をどうすべきか思い悩み、一夜限りの相手をとっかえひっかえすることで、どうにか危ういバランスを保っていた。
芽依には、アルバイト先の客だと言っていたが、本気で信じてはいなかっただろう。
「らしいね。でも、似ていると言われても、嬉しくない。なりふり構わず手に入れたいと思うほど、好きだった男と似ていると言われても、ちっとも嬉しくないね」
「………」
思いがけないダニエルの言葉に、舌の上に留めていた酒をゴクリと飲み干す。
芽依が、そこまで話していることに驚いた。