意地悪な副社長との素直な恋の始め方
もしも偲月と出会わなければ、彼女に惹かれなければ、芽依とは「兄妹」とも「恋人」とも言い切れない、歪な関係になっていたかもしれない。
でも、偲月に惹かれれば惹かれるほど、芽依と「兄妹」以上の関係になる「もしも」は、考えられなくなった。
芽依に抱いているのは限りなく恋に近くて、決して恋にはならない気持ちなのだと思い知った。
そんな俺の変化に気づいた芽依が、焦り、怯えたのも無理はない。
それまで、彼女の気持ちに薄々気づいていながら、面と向かって拒絶したことはなかったのだから。
はっきり「抱いてほしい」と言われた時ですら、偲月に嫉妬しているだけだ、気の迷いだといなし、向き合おうとしなかった。
兄妹という関係を壊したくなくて、無理やり彼女の気持ちを「妹」という枠に押し込めようとした。
そんな身勝手な態度が、芽依を追い詰めていたとも気づかずに――。
母の病室で、芽依がこれまで吐いた嘘の数々を告白するのを聞いて、大きな怒りを覚えたのはほんのわずかな間だけだ。
ひとたび冷静になれば、なぜ芽依がそんなことをしてしまったのか、十分理解できた。
自分の曖昧で卑怯な言動が、芽依をそこまで追い込み、偲月を傷つけたのだ。
気づかないフリをするのは、一番残酷な優しさだった。