意地悪な副社長との素直な恋の始め方
そんな目に遭う心当たりはまったくなかったものの、女子社会お定まりの洗礼、相手にするだけ時間の無駄だと気にもせずにいたのだが……。
「あの人、システム開発部へ異動になったの。あそこは男性社員率九割だけど、女の魅力が通用しない人が集まってるからね。秘書課で彼女の圧政に苦しんでいたほかの秘書たちは、風通しが良くなったと喜んでたわ」
「そ、そうなんだ……ぜ、ぜんぜん知らなかった」
(朔哉ならそれくらいやりかねない。でも、わたしのため……なんて、ナイナイ!)
田崎さんと美人秘書の異動は、わたしへ、というよりほかの社員への配慮だろう。
社食のカレーや自販機のドリンクは、百歩譲ってわたしのためだったとしても、好きな食べ物を与えておけば、大人しくしているだろうと考えたからにちがいない。
(うん、そうに決まってる)
「で、今夜の合コン、ダメ?」
どうやらそっちが本題だったらしい。
苦笑いして首を振った。
「ゴメンね? 予定があって」
「もー! 本当に?」
疑いのまなざしを寄越すサヤちゃんに、大きく頷いた。
「うん。本当」
今度は、嘘ではない。
本当に、予定がある。
キレイなドレスを着て、ホステスになるという「予定」が。