意地悪な副社長との素直な恋の始め方
芽依は、そうだ、とも、ちがう、とも言わなかった。
「彼といると……嬉しかったり、イライラしたり。ものすごく腹が立ったり、落ち着かないの。でも、」
「でも?」
「偲月ちゃんも……お兄ちゃんに、同じようなことを感じるんだって」
「偲月?」
なぜここで妻の話が出てくるのか。
解せずに首を傾げたら、芽依はくすりと笑った。
「意地悪されると腹が立つけど、無視されるよりはいい。ちょっと素っ気なくされただけで悲しくなるし、たまに優しくされるとすっごく嬉しくなっちゃう。単純な自分にうんざりして。でも、そんな自分も嫌いじゃない。どんなに腹を立てても、やっぱりお兄ちゃんが好きだから、結局許しちゃうんだって言ってた」
「……いつの間にそんな話をしていたんだ」
偲月と芽依の関係は、未だギクシャクしているものとばかり思っていたから、ずいぶん打ち解けた話をしている様子に驚いた。
「ちぃちゃんが生まれた時、出産祝いを贈ったでしょう? それで、ちぃちゃんと一緒にお礼の電話をくれて。それから、時々テレビ電話で連絡を取り合ってるの。ほんと、偲月ちゃんにそっくりだね?」
「ああ、確かに千陽は偲月に似ているな」
昨年の夏に生まれた娘の千陽は、目元や口元が母親の偲月に似ているとよく言われる。
「ちょうどその頃、ダニエルのことで、同僚のスタッフから色々当てこすりみたいなことを言われたりして、落ち込んでたんだけど……。ちぃちゃんとお兄ちゃんの話を聞いてたら、笑わずにはいられなくって。いま思い出してもおかしくなるくらい。おかげで、すっかり気持ちも明るくなったの」
「そんなに笑える話はなかったと思うけどな?」
落ち込んでいた芽依を元気づけられたなら嬉しいが、思い出し笑いまでされては、一体どんな話を聞かされていたのか気になる。