意地悪な副社長との素直な恋の始め方

「面白くて笑えるっていうより、微笑ましいって感じかな? 初めてのオムツ替えに失敗して、汚物まみれになってパニックになってたとか。出勤前にミルクをあげたばかりのちぃちゃんを抱っこしたら、ゲップで吐き戻したミルクまみれになったとか。添い寝するはずが、いつも自分が先に寝ちゃってるとか。ちぃちゃんが流星さんに抱かれてご機嫌になると、ものすごく不機嫌になるとか……」

「ほかの男の腕に抱かれて喜ぶなんて百年早い」

「ほかの男って。流星さんはちぃちゃんの伯父さんじゃないの。もー、お兄ちゃんってば」


実際、初めての育児は失敗の連続だった。

必要な技術をいくらプレママ・プレパパ教室でしっかり学んでも、シミュレーション通りにはいかないのが現実だ。
こうすればこうなるはず、という予想をことごとく裏切られる。

偲月があまり神経質ではないから、笑って済まされている(それどころか、証拠写真を撮られている)ものの、きっと許せずにイライラしてしまう母親だっているだろう。


「本当は……偲月ちゃんから、お兄ちゃんとのことを聞かされたら、苦しくて、悲しくて、辛くなるんじゃないかと思ってた。でも、ちぃちゃんがあんまりにもカワイイから、ぜんぜんそんなこと感じなかったの。それどころか、ちぃちゃんに会いに、日本に帰りたくなっちゃった」


芽依は、そんなことを言いながら、柔らかく微笑んだ。

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