意地悪な副社長との素直な恋の始め方
「オヤジ……父さんは、日本に戻って、次のステップへ進んでもらいたいと言っている。芽依は、どうしたい?」
「わたしは……」
「ダニエルのことが、気にかかるのか?」
言い淀む芽依にダメ押しで訊くと、微かに呻くような声を出し、真っ赤になった顔を背けた。
「わからない。でも…………」
「でも?」
「たぶん……好きに、なると思う。お兄ちゃんの次くらいには」
そう思っている段階で、すでに好きなのだとは言わずにおいた。
自信過剰な御曹司は、少しくらいヤキモキすればいい。
「ダニエルは、俺よりずっとイイ男だよ」
「そんな、お兄ちゃんのほうがずっと、」
「ダニエルは、俺にはできないことができる。芽依を幸せな花嫁にして、新しい家族を作れる」
「…………」
「芽依が、彼を愛せるなら」
芽依の顔が、歪んだ。
泣きそうで、それでいてとても嬉しそうな、複雑な表情だ。
「そう、だね」
瞬きで、滲んだ涙を払った芽依は、にっこりわらってきっぱり言う。
「お兄ちゃん。わたし……まだ、やり残したことがあるから、もうしばらく日本には帰れない」
「わかった」
「でも……近いうちに、ちぃちゃんとお父さんに会いに、一時帰国するね」
芽依は、「誰と一緒に」とは言わなかったが、父には事前に心の準備をさせておいた方がいいだろう。
「父さんには、覚悟するように言っておくよ」
「うん。それと……月子さんにも」
「ああ。ダニエルには、父さんを頷かせたければ、母さんに取り入るのが一番だと教えておいてやれ」
「そうする」
軽く声を上げて笑う芽依が、もう一度夕城家の一員に戻るには、もう少し時間が必要かもしれない。
だが、疎遠になることはきっとないだろう。
母と偲月が、そうはさせないにちがいない。