意地悪な副社長との素直な恋の始め方

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約十一時間のフライトの後、飛行機は無事定刻通りに着陸。

ひと通り仕事も片付き、桜の名所、日帰り入浴もできる温泉、手打ちそばの店など、明日のデートプランも完璧だ。

入国審査を抜け、スーツケースをピックアップする間に、『SAKURA』からのメールで、あらかじめ頼んであったマカロンタワーのケーキが無事配達されたことを確認する。

偲月が母とシェアすることを考慮して、七十個ほどを使ったサイズで作ってもらったのだが、おそらく一日でなくなるものと思われる。

プレゼントは、育児中とあってアクセサリーはやめ、芽依と一緒に選んだマカロンクッションにした。
千陽(ちはる)への土産は、オーガニックコットンで作られた布絵本とカラフルでさまざまな形状をしたシリコン製のベビーボールだ。

ついつい、服やおもちゃなど、千陽に似合いそうなもの、千陽が喜びそうなものを際限なく買ってしまうため、偲月には出張土産は二個までと制限されている。

喜ぶ偲月と千陽の姿を想像し、緩みそうになる頬を無理やり引き締めて、税関を抜け、到着ロビーへ。
迎えを探す必要もないので、そのままタクシー乗り場へ向かおうと、派手なラッピングを施されたマカロンクッションを抱え直した時、予想外の人物に出くわした。


「あ! いた! 千陽(ちはる)ぅ、パパいたよ~」


人の行き交う到着ロビー。
そこには、ひと月ぶりに会う娘と妻がいた。


「朔哉、おかえりぃー。千陽、パパ帰って来たよー」


なぜここにいる、と訊く前に、愛娘を押し付けられ、反射的に抱きとめた。
大きな目で見つめられて、無理に引き締めていた頬も緩んでしまう。


「ただいま? ちぃ」


いつものように、にたーっと笑い返してくれることを期待したが、見開かれた目がみるみるうちに潤み、その顔が強張る。

なぜ、と思った矢先、「うぎゃああぁ」という耳をつんざく泣き声が響き渡った。

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