意地悪な副社長との素直な恋の始め方


「そんなこの世の終わりみたいな顔しなくても。朔哉もお義父さんにパパ見知りしてたって、月子さんも言ってたよ? 車を待たせてるから、行こう?」


大した問題ではないと笑う偲月に噛みつきたくなったが、さらに千陽を怯えさせては、一生パパ見知りされかねない。
大人しくスーツケースを引き、マカロンクッションを抱えて二人の後をついていく。

ピックアップレーンでは、さらに予想外の人物が待っていた。


「おかえりなさい、朔哉。あらまぁ、何とも似合わないものを抱えてるわねぇ? それ、マカロン?」

「シゲオ」

「ジョージよ!」

「ジョージ……なぜここに?」


クレアのファッションショーで出会ったメイクアップアーティストに弟子入りしたシゲオは、残念ながら弟子以上の存在にはなれなかったものの、しっかりと人脈と伝手を獲得。
いまやあちこちのショー、雑誌、広告と世界を股にかけ、幅広い活躍をしている。

一年の三分の二以上を海外で過ごし、日本にいることの方が珍しい。

「わざわざ迎えに来てくれたのか?」

「ついでよ、ついで。偲月の誕生日パーティーに、月子さんが呼んでくれて、さっきまで夕城家にお邪魔してたのよ。ハジメや日村さん、福山さんも家族で来ていて、朔哉だけ除け者でカワイソウねーって思っていたら、夕方に帰国するって言うじゃない。夜に一本仕事が入っていて、お酒も飲めないし、久しぶりに朔哉の顔も見たかったから、こうしてお迎えに参上したの」

「あ、ああ、ありがとう」


バチリ、とウィンクされ、若干引きつりつつも何とか笑みを返した。


「ちなみに、偲月のモデル復帰第一弾、『avanzare』の秋冬コレクションでは、わたしがヘアメイクを担当することになったのよ。すっかり朔哉に甘やかされている偲月をビシバシ鍛えるから、協力してちょうだい」

「甘やかしてはいないが……」

「は? あんな巨大なマカロンケーキを贈っておいて、甘やかしていないですって? 偲月がいったい何個食べたと思ってるのよ! 今後、偲月にマカロンを与える時は、一回につき一個、週に三度までにしてちょうだい」

「え! シゲオ、そんなのぜんぜん足りな……」

「偲月。アンタ、出産前の体型にまだ戻り切っていないんでしょ? 撮影まで、あと三か月しかないって、わかってるの!?」


シゲオは、抗議しようとした偲月をギロリと睨む。


「……ハイ、スミマセン」


妊娠中も、カメラの仕事、マタニティ関係のモデルもしていた偲月だが、出産後は育児に追われて未だ復帰を果たしていなかった。

しかし、彼女が専属モデルを務める『avanzare』のデザイナーからは、秋冬ものを出すまでには復帰してほしいと言われているらしい。

< 540 / 557 >

この作品をシェア

pagetop