意地悪な副社長との素直な恋の始め方
爽やかな笑みを残して去って行く彼を見送って、サヤちゃんが肘で脇腹を突いてきた。
「ほら、モテるでしょ? 偲月ちゃん。毎回のように、貢物を貰ってる」
「貢物って……大げさな」
「この間なんて、C商事の工藤部長にマカロンを貰ってたじゃない!」
「いや、でも、あれはみんなで食べてって」
「偲月ちゃんが、マカロン好きだって言ったからよ!」
「そうだっけ?」
「そうなのっ! 偲月ちゃんが受付に立つようになってからの手土産率は五割。かつてない勝率だと課長も言ってたし。これが受付じゃなければ、賄賂を疑われるところだから!」
(マカロンが賄賂……んなバカな)
「わたしがよほど物欲しそうな顔をしているからじゃない?」
「そんなわけないでしょーっ! これだから、天然モテ女子はっっ! 偲月ちゃんは、高嶺の花と見せかけて、気さくで飾らないし。時々、おバカで元ギャルっぽいところを見せるし。うっかりギャップ萌えしちゃうんだってば!」
(時々、おバカって……いや、元ギャルなのはまちがってないけど……)
高校時代の友人は、ほぼギャルとチャラ男。
その中にいたわたしも、カメラオタクであることをひた隠しにしつつ、彼らと同類のフリをしていた。
サヤちゃんの評価に、怒るべきか喜ぶべきか迷っていると、その肘が再び勢いよく脇腹に入る。
「うっ」
「ちょっ、ちょっと偲月ちゃん! 大変! 本物のイケメンよっ!」
「……本物?」
痛みを訴える脇腹をさすりながら、自動ドアへ目を向ければ、確かに「本物」のイケメンがいた。
少し長めの髪。長いまつげに縁どられた大きな瞳は、すべて夜の闇のごとく真っ黒。
高い頬骨とまっすぐな鼻筋、薄い唇は、寸分の狂いもなくあるべき場所に配置されている。
百八十五センチはあるだろう身長に見合う長い足。
仕立てのいいライトグレーのスーツに包まれた身体は引き締まり、無駄なぜい肉などひとつもついていない。
モデルか俳優と言われても納得の恵まれた容姿の持ち主は、しかし客ではない。
我が社――『YU-KIホールディングス』の未来の代表取締役社長で、現副社長の「夕城 朔哉」だった。