意地悪な副社長との素直な恋の始め方
これは、断じて新婚生活じゃない
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緊張のあまり眠れないかも……と思ったのは、杞憂だった。
守るように、離れないように抱きしめられている安心感から、あっさり眠りに落ち、熟睡。
控えめなアラーム音で目が覚めた時、部屋の中は既に明るかった。
(病院……起きないと……)
重い瞼を引き剥がすように目を開け、とりあえずベッドから起き上がろうとしたが……かなわない。
(ちょ、なに……?)
抱きすくめられる、というよりは、背後から回された腕でロックされていた。
馴染みのある温もりと香りは、朔哉のものだ。
「まだ早い」
頭上から、寝起きとは思えぬはっきりした声がして、うろたえる。
「さ、さくや……でも、」
寝起きで顔を合わせる、という初のシチュエーションがとてつもなく気恥ずかしい。
「あと十五分は寝ていられる」
「で、もっ!?」
十五分もこのままの状態ではいられない、と言おうとしたうなじに、熱く柔らかいものが押し当てられ、ピリッとした痛みが走る。
「いっ!?」
(いま、キスマークつけたっ!?)
「ちょっ! 朔哉、なに、そ、そんな目立つところにっ……」
肩越しに振り返ろうとするが、ますます拘束する力が強まり、逃れられない。
しかも、その状態で耳を食まれる。
抵抗したいけれど、朔哉の怪我した腕に当たったら、と思うと躊躇ってしまう。
「やっ……やだっ、それ……やぁっ」
そうこうしているうちに、くすぐったさと気持ちよさ、恥ずかしさで、わたしの理性は風前の灯になりつつあった。
「イヤ、じゃなく……キモチイイ、だろう?」
耳元で囁かれるとゾクゾクして、彼に与えられる快楽を憶えている身体が、淫らなことを期待してしまう。
「ち、ちがっ……」
「素直になれ、偲月」
「だれ、がっ……」
するりとTシャツの裾から潜り込んだ手が不埒な真似をする寸前、今度はけたたましいアラーム音が鳴り響いた。