意地悪な副社長との素直な恋の始め方
広い背がエレベーターの中へ消えるのを見送って、サヤちゃんが切ない溜息を吐く。
「はぁ、わたし秘書課に行きたいぃ……麗しい副社長のお顔を毎日拝めるだけで、幸せになれる自信があるわぁ。ああ、副社長とお近づきになりたい……そして、玉の輿に乗ってみたい……。偲月ちゃん、一緒に異動願い出そうよぉ」
「わたしは遠慮しておくわ。あそこまでイケメンぶりが徹底しているのって……なんか嘘くさい。絶対、演技入ってるし」
確かに、彼は紛れもない御曹司でイケメンだ。
しかし、だからといって中身までイケメンとは限らない。
「何言ってるの! 演技するのなんて当たり前! あらゆる局面で好感度は大事でしょ? それに、裏表がある方がいいじゃない。自分だけが知る姿……萌えるわぁ」
「……萌えない」
「もう、偲月ちゃんってば夢がないんだから! 嫌いな相手とひょんなことから『恋』に落ちる……って、少女マンガの王道でしょ!」
目をキラキラさせているサヤちゃんに苦笑いし、断言する。
「副社長とだけは、あり得ない」
彼――夕城 朔哉のことは、よく知っている。
爽やかな笑みの下で、毒舌を吐くことも。
どんなに簡単に女性を虜にするのかも。
ベッドの上で相手に懇願させるのがどれほど巧みかも。
ある女性を除いて、そのほかの女性はどうでもいい存在だと思っていることも。
いやというほど知り尽くしている。
なぜならば、「夕城 朔哉」はわたしの元兄で、
現「セフレ」だから。