意地悪な副社長との素直な恋の始め方
月曜に備え、シゲオの部屋から荷物を引き揚げなくてはと考えていた土曜日の夕方。知らぬ間に朔哉が知り合いのショップに頼んでいた、大量の衣類や靴、鞄などが届いた。
てっきり、フェミニンでやや保守的な服ばかり頼んだのだろうと思って箱を開けたら、予想を覆すセレクト。
タイトスカートに、ジャケットは女性らしい身体つきをさりげなく強調するデザインのスーツ。靴は、アウトソールの赤が印象的な八・五センチのハイヒールをはじめとして、すべて五センチ以上のヒールがあるものだった。
普段着は、カジュアルでシンプルなデザインのパンツスタイルが中心。
下着は、普段わたしが選ばない、赤や黒、紫などの大胆な色合いで、どう見ても朔哉の趣味でしかないと思われたけれど。
何一つとして、「芽依」を感じさせるものはなかった。
ちゃんと、わたしに似合うものを選んでくれたのだと思うと、素直に嬉しかった。
が、だからといって、朝からこんなことをするつもりで着たのではない。
「なっ……さ、朔哉っ! ちょっ……何すんのよっ!」
胸元に僅かな痛みを感じて見下ろせば、際どいところにキスマークが付いている。
「もっと目立つところに付けてほしいのか?」
「んなわけないでしょうが! もう、遅刻す……んっ」
キスでわたしを黙らせた朔哉がわたしをベッドへ押し倒し、ブラジャーのホックに手をばしたタイミングで、ベッドの上に投げ出されたスマホが着信を知らせた。
「チッ! いいところで……もしもし?」
朔哉が離れた隙に、素早くベッドを降りる。
(何を……何を考えてるのよぉぉぉぉっ!)
わたしが、外れかけたブラジャーのホックを留め、ブラウスのボタンを元通りにし、ずり上がったスカートを引き下ろして乱れた髪を整えている間に、朔哉は電話を終えていた。
「オヤジが迎えに来た」
いつも朔哉は自分で運転して通勤しているが、今朝は社長――元継父がわざわざ遠回りして迎えに来てくれたらしい。
「じゃあ、わたしは行くね?」
遅刻は決定だが、急ぐに越したことはない。
しかし、そそくさと玄関へ向かおうとした腕を掴まれ、引き戻される。
「どうせ同じ場所に行くんだ。一緒に乗って行けばいいだろう? このままだと遅刻するぞ」
「え。いや、大丈夫だし!」