意地悪な副社長との素直な恋の始め方
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本社ビルの駐車場に着くなり、さんざん実の父にからかわれて不機嫌モード全開の朔哉から逃げるようにして車を降り、非常階段へダッシュ。
幸運にも誰かに出くわすこともなく無事総務部へ辿り着いたのだが、わたしを出迎えたのはサヤちゃんの尋問だった。
「ちょっと、偲月ちゃん! 朝のミーティングで聞いたけど、副社長の臨時秘書になるって、どういうことっ!? 偲月ちゃんのカレシって、副社長だったのっ!?」
「しーっ! サヤちゃん、こ、声が大きいっ!」
「見初められて、玉の輿ってこと?」
「だから! そうじゃなくてっ……ああっと……ちょっと資料室行って来まーす!」
知り合いじゃないと言っても納得しそうにない彼女の勢いに、引き継ぎがあるからと周囲に言い訳し、滅多に出入りする人がいない資料室へ引きずりこんだ。
二人きりになるや否や、サヤちゃんは胸の前で腕を組み、仁王立ちで脅しの言葉を吐く。
「偲月ちゃん。抜け駆けは許さないわよ?」
ヘタに言い逃れようものならば、地の果てまでも追い詰められそうだ。
ここは正直に経緯を説明し、協力を仰ぐのが得策と判断した。
「ぬ、抜け駆け……じゃなくて、実は……昔、家族だったの」
「家族ぅ?」
「実は……昔、親同士が再婚して、一年くらい一緒に暮らしてたの」
「……親……再婚……って、夕城社長がお父さんで、副社長がお兄さんだったってことっ!?」
「う、うん」
「な、なんて羨ましい……あんなハイスペックな男性二人と同棲なんて、夢のような暮らしだわ」
それまで、鬼気迫る表情でわたしを問い詰めていたサヤちゃんが、うっとりした表情で呟く。
「同棲じゃなく、同居だけど」
「どっちでも一緒でしょ」
「いや、一緒じゃないでしょ」
「それで、副社長は偲月ちゃんのことを気にかけていたんだ。納得。結婚はいつ?」
「はい?」
「秘書にするってことは、それとなく周囲に偲月ちゃんを紹介するためでしょう?」
「いやいやいやいや、それはない! 召使いとして働くだけで……」
「メイドとご主人様ってこと? 偲月ちゃんの雰囲気からいくと、メイドより女王様キャラだと思うけどなぁ」
「そうじゃなくてっ! ちょっと事情があって……その、わたしが色々と迷惑をかけたお詫びとして、しばらくの間、副社長のサポートをすることになったの」
「なるほど。表向き、それらしい理由は必要よね」
「だから……」