意地悪な副社長との素直な恋の始め方

ひと通り、予定されていたプログラムを消化したあとは、新作メニューの試食会。
新人研修では、試食の感想レポートを元にして、グループワークで新メニューの名称を考えることになっているらしいから、れっきとした仕事だ。

ちなみに、立食形式の試食会には、メンターとなる各部署の若手社員も参加している。
所属部署の垣根を越えて、なるべく色んな先輩社員たちと交流してもらうのが目的で、夕城社長や朔哉も、自ら会場を歩き回り、新入社員たちに声を掛けていた。

二人とも、料理を楽しむ暇などなさそうだ。


(本当に……食べててもいいの?)


朔哉には、式の間も試食会でも、傍に張り付いている必要はないと言われたが、忙しそうな上司を差し置いて、呑気に料理を堪能してよいものか。

ずらりと豪華な料理が並ぶテーブルを横目でちらちら窺っていると、「ちょっと、いい?」と肩を叩かれた。


「はい?」


振り返れば、ひっつめ髪にマスクをした女性と緩いパーマのかかった茶髪に甘い顔立ちのイケメンがいた。
女性は、マスクをしていてもわかるほど顔色が悪く、手にしたカメラが重たそうだ。


「アンタ、うちの社員だよね? 俺は、広報部の流星(りゅうせい)。こっちは八木山(やぎやま)


甘い顔立ちに似合わぬ、やや乱暴な物言いで自己紹介されて面食らう。


「え、あ、総務の明槻(あかつき)です」

「は? 総務? 秘書じゃなく?」

「秘書はあくまでも臨時で……」

「臨時……でも、信頼できるから、副社長の傍にいるんだろうし……臨時なら、暇だろうし……」


ぶつぶつと呟いていたイケメンは、ひとりで勝手に納得し、いきなり女性の手から奪ったゴツイカメラをわたしに押し付けてきた。


「厚かましいお願いだとは重々承知しているんだけどさ。でも、こっちも切羽詰まってるんだよね。どう見ても暇そうなアンタしか、頼めそうな人がいなくって」


確かに、この会場で一番暇そうにしているのは、否定できない。
が、さっぱり話が見えない。


「あの……?」

「コイツ、八木山は妊娠してて、つわり真っ最中で。料理の匂いが限界らしくて、これからタクシー乗せて帰すんだけど、下まで連れて行く間、ソレで適当に写真撮っててくれる? 社内報で使うものだから、ピンボケしない程度で十分。あ、副社長のスマイル撮れたら、特別報酬出してもいいけど」

「え? え?」

「というわけで、ヨロシク!」


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