意地悪な副社長との素直な恋の始め方
家族だからといって、仲がいいとは限らない


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わたしが朔哉と出会ったのは、高校三年生になったばかりの春。
良く言えば恋多き女、悪く言えば飽きっぽい母が、五度目の結婚をしたのがきっかけだった。

五番目の継父となる夕城(ゆうき)さんは、『YU-KIホールディングス』という大企業の社長でバツイチ。離婚した本妻の息子、死別した愛人の娘と三人で暮らしている――。

友だちとカラオケに行くはずが、突然拉致(らち)られて押し込まれたタクシーの中。つらつらと夕城家について事後報告していた母が、とんでもない爆弾を落とした。


「……というわけで、今日は顔合わせ。来週には引っ越すから、荷物片づけておきなさいね? あ、夕城さんの家から偲月の高校までは、バスと電車で一時間くらいだそうよ」

「はぁっ!? 来週っ!? ちょっと、なんで春休み中に言わないのよっ! 定期買い直すの面倒なんだけど! しかも、一時間もかかるって? 遠いしっ!」 


転校不要なのは幸いだとしても、つい先日、三か月の通学定期を購入したばかり。
その上、新しい家からだといまより通学時間が三十分も余計にかかるなんて、最悪だ。

八時に家を出るのと七時半に家を出るのとでは、メイクの出来に大きな差が出る。


「社会人になれば、時短メイクは必須スキルなんだから、いまから練習しておきなさい。ところで、偲月の名字、『明槻(あかつき)』のままでいいわよね?」

「時短メイクなんて、必要になってから覚えればいいじゃん……。名字は、いちいち変えるの面倒だし、そのままでいい」


これまでの母の再婚でも、わたしの名字は『明槻』のままだった。養子縁組もしたことがない。
恋多き母親が、いつ離婚すると言い出すかわからないので、面倒なことは極力避けるに限る。


(ま、もって一年か。わたしが高校を卒業するまでは、頑張って恋心を維持してもらいたいところだけど……)


どんなにお金持ちでも、どんなにイケメンでも、母の「恋愛」の賞味期限は最長一年。わたしが記憶している限り、結婚してもしなくても、それ以上続いた相手はいない。


「ここよ。ちゃんと偲月の部屋も用意してくれたらしいから、安心しなさい。わかっているとは思うけど、くれぐれも喧嘩なんかしないように。仲良くしなさいよ? 娘さんは偲月と同い年だからね」


タクシーを降りた目の前には高い塀がそびえ立ち、門を入った先にはシンプルな外観の豪邸があった。


(すご……。さすが、社長)


余計な装飾は一切なく、大きな窓をふんだんに配したデザインは、おしゃれのひと言に尽きる。

玄関は、首を折って見上げなくてはならないほど高い吹き抜けになっていて、なんと「家政婦さん」に出迎えられた。


「お待ちしておりました。家政婦を務めております、中山と申します。どうぞよろしくお願いいたします」

「こちらこそ、よろしくお願いします」

「お願いしまーす……」


ふかふかのスリッパに感動しながら、中山さんに導かれてリビングへ。

アイボリーとダークブラウンで統一されたモデルルームのような空間で、義理の兄姉になる二人がわたしたちの到着を待っていた。

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