意地悪な副社長との素直な恋の始め方
申し訳なさと心配でオロオロしてしまいそうな自分を叱りつけ、「コンビニに行ってくる!」と部屋を飛び出した。
本社ビルの一階には、コンビニがテナントとして入っている。
ちょうどお昼休み後の時間帯で、めぼしいものは残っていなかったが、卵サンドとレタスサンド、おかかのおにぎりが、かろうじてスカスカの棚に転がっていた。
それらと合わせてインスタントのコーンスープとミネストローネを購入し、急いで副社長室へ戻る。
「た、ただいまっ! サンドイッチとおにぎりなんだけど……食べられる?」
朔哉は、わたしが出て行った時と同じ姿勢でソファーに横たわっていたが、むくりと起き上がった。
「サンドイッチなら」
「スープもあるんだけど? コーンスープとミネストローネ、どっちがいい?」
「……コーン」
話すのも辛そうな朔哉の様子に動揺してしまって、サンドイッチの封を切る手が震える。
「偲月」
「すぐに用意するからっ」
あたふたと立ち上がろうとして、バランスを崩したところを朔哉に受け止められる。
「ごめっ……だ、大丈夫っ!?」
怪我をしている腕にぶつかったかもしれないと青ざめて覗き込んだら、キスされた。
「な、何し……」
「落ち着け。人間、痛いだけじゃ死なない」
「でもっ」
「三十分もすれば、薬が効いて何ともなくなる。おまえまで怪我をしたら、誰が俺の世話をするんだ? 午後から出かける予定はないし、急がなくていい。おまえも腹が減ってるんだろ?」
「うん……」
「まずは、スープから作れ。じゃないと、猫舌の偲月はいつまで経っても飲めないぞ」
冷静に対処できない自分が情けなくて、朔哉の優しい言葉がかえって涙を誘う。
「……うん」
「それにしても、慌てすぎだろ。バカ」
「ば、バカって言わなくてもいいでしょ……」
「泣くな。マスカラが落ちる。パンダになるぞ」
「ウォータープルーフ」
「口紅も?」
「ん」
「それなら、いくらキスしても大丈夫だな」
「え、や……んぅ」
ニヤリと笑った朔哉は、わざとリップ音を立ててキスをする。
公私混同。
いくら誰も見ていないからって、仕事中にこんなことしていいはずがない。
でも、イヤではなかった。
いつだって。