意地悪な副社長との素直な恋の始め方
いつまでもじっと黙って座っているわけにもいかず、おずおずとランチボックスの中の一品、生ハムを使ったサラダを指し示した。
「……食べてみる?」
「ああ」
そう言った朔哉が、フォークを手に取る気配はない。
食べさせろ、という無言の圧力に屈し、発火しそうなほど顔が熱くなっていることを自覚しながら、生ハム、ラディッシュ、ベビーリーフが上手くワンセットになるようフォークに載せた。
「ど、どうぞ」
我ながら完璧だと思ったのに、朔哉は不満そうだ。
「ちがうだろ」
「は?」
「台詞がちがう」
「え……」
(ま、まさか……アレをやれと? あの、定番の……そ、そんなの……)
「む、無理っ! とっとと食べてっ!」
「なっ……」
朔哉の口に、問答無用で突っ込んだ。
「あーん」と言いながら食べさせるなんて、たとえ人目がないところでも、恥ずかしすぎる。
(羞恥心、いったいどこに置き忘れたのよっ!? キャラちがうしっ!)
「偲月。次は、鴨肉のテリーヌが食べたい」
芸術的な色彩を持つテリーヌを半分に切り分けて、差し出す。
「…………」
「…………」
しばし睨み合い、無言の攻防戦を繰り広げ……。
絶対に「あーん」なんて言わない、というわたしの強い決意を感じ取った朔哉が渋々折れた。