意地悪な副社長との素直な恋の始め方
家政婦さんのおかげ
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「偲月、アレを取ってくれ」
「はい」
「ソレじゃない。アレだ」
「どうぞ!」
「ちがう!」
「え? こっち?」
「そっちだ!」
「そっち? それ?」
「あっちだ」
「もう、どれなのよっ!」
「あ、ここにあった。もういい」
「…………」
「偲月、ペンがない」
「引き出しに替えがある」
「さっき最後の一本を使った」
(経費削減のために、つましい努力をしている社員を何だと思って……)
「取り敢えず、わたしのを使って」
「偲月、さっきのペンはどこだ?」
(こっちが訊きたいわよっ!)
「偲月、喉が渇いた」
「コーヒーね?」
「偲月、コーヒーが冷めた」
「……淹れ直すわ」
「偲月、コーヒーが……」
「ねえ、本当に飲むの?」
「飲む」
「偲月、コーヒーが……(以下省略)」
「ホットでいいのね?」
「偲月、コ……」
「飲む気がないなら、淹れないわよっ!?」
「いや、ネクタイにこぼれた」
「はぁっ!? もうっ! ほら、外すからこっち向いてっ!」
(どうやったら、器用にネクタイだけにコーヒーをこぼせるのっ!?)
常に替えのネクタイとワイシャツ、スーツは用意してあるから問題はないが、毎朝苦労してネクタイを結んでいる身にもなってほしい。
「あんまり染みを付けるようなら、よだれかけさせるわよ?」
「じゃあ、これからはネクタイを外して飲む」
「コーヒー飲むたびに、外して結べってことっ!?」
「いい練習になるだろ?」
覚えたてのダブルノットを結びながら、朔哉を睨む。