意地悪な副社長との素直な恋の始め方


臨時秘書として、仕事でもプライベートでも朔哉の世話をするようになって、十日。
予想外の朔哉のダメっぷりに振り回されていた。

こちらの手を煩わせるためにわざとやっているのではないかと思うほど、酷い。

高校、大学と理系の朔哉は、IT最先端の教育を受け、ペーパーレスで育った弊害なのか、紙の書類整理ができない。

記憶すれば用なしだと思っているらしく、目を通した書類を適当な場所に置き去りにする。
必ず部屋の中で見つかるので情報漏洩の心配はないが、サインを貰って回収するはずだった秘書と大捜索するハメになる。

福山さんの会社と本社IT部門が共同開発している電子決裁システム。全社全部門導入を一刻も早く実現させるべきだと思う。

それから。

すぐに物を――ペンとか、ペンとか、ペンとかっ(怒)! 失くす。
大抵、スーツのポケットとか、鞄の底、書類の間から見つかるが、この前はなぜか窓際にあるパキラの鉢植えに刺さっていた。どうしてなのか、いまだに謎だ。

それから。

何事も最小限の労力でこなそうとしているからか、すべての指示を代名詞で済まそうとする。
アレ、ソレ、コレで通じ合えるのは、長年連れ添った夫婦かエスパーだと声を大にして言いたい。二回に一回は見当違いのものを差し出して、怒られるのは理不尽だ。

それから。

コーヒーを飲みたいと言っておきながら、仕事に夢中になって飲むのを忘れる。
そのため、三回に一回は淹れ直さなくてはならない。

しかも、いっそアイスコーヒーにすればよかったなんて言われた時には、本気で辞めてやる! と思った。

ランチは、おにぎりとかサンドイッチとか、スプーンで食べられるオムライスとかカレーライスとか、左手でも食べられるように用意している。

なのに、毎回餌付けを要求される。

家で食べているときには、そんなことをしない。
わたしの顔が恥ずかしさで赤くなるのを楽しむためだけにやっているのだ。ムカツク。

朔哉が会議やら打ち合わせやらで席を外す時以外は、コマネズミより細々と動き回っている。

副社長室の中で一日のほとんどを過ごしているけれど、きっと毎日一万歩は確実にクリアできていることだろう。

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