恋愛計算は間違える(アルバートとテレーサ)
アルはテレーサを見た。
テレーサの手のフォークは止まっている。
そして皿の上のフレンチトーストを見つめていた。

「領主であるあなたの行動や発言は、いろいろな場面で影響力を持つ。
政治力が必要とされる。

近隣の領主もこの土地を狙っているはずです」
テレーサの群青の瞳が少し揺れた。
ガラス玉に水滴が落ちたように・・・

「・・でも、私は望んでここに来た訳ではないのです・・」
テレーサの最後の言葉は、消え入りそうだった。

「私も望んでここに来た訳ではないが・・
どこにでも自分のやるべきことが
あると信じています」
アルは断言して、立ち上がった。

これは俺の決め台詞(セリフ)だろうな・・
アルは少し自分の言葉に酔った。

「ここでの私の仕事は、
あなたをここの領主として、
ふさわしい人間にすることですね」
そしてテレーサを見やった。

「それにはまず、食べる事・・
健康にならなくてはいけません」

テレーサはどうしたらよいかわからない・・・
というようにため息をついた。

アル自身も、予想外の展開になってしまったと思っていた。

領主の教育係を自分で提案して、
立候補してしまった・・・・

まさか昔、
さんざん言われた内容を、自分が話す立場になるとは・・

運命は皮肉なものだ。

テレーサはミルクのカップを、
冷たい手を温めるように両手に持って、そっと飲んだ。

<銀灰色の姫君の教育係>

これが俺のこの国での、最後の仕事になるだろう。
今度の飼い主は、俺が自分で選ぶ。

それにこのうら若い領主を、
俺好みに仕立て上げるのも悪くない・・・

アルの下心が同時に発生した。

テレーサが完食するのに、2時間かかった。
その間に
アルは車の修理を終わらせていた。


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