恋愛計算は間違える(アルバートとテレーサ)
<ブランシュール城・15時30分

「ここは独房か?」

アルは思わず言ってしまい、
ダイアナの顔を見た。

出入り自由で、鉄格子がないだけだが・・

「テレーサ様が小さい時は、
この部屋で暮らしたの。
奥様の命令でね。

旦那様がさすがに見かねて、
修道院に入れたらしいけど・・・

まぁ、
愛人の娘は気に食わなくって当然。
女のいびり、いじめはひどいものよ」

寒くて、暗い部屋で・・
ひとりぼっちで・・
笑わない、泣かない、怒らない、
喜ばない・・
すべての感情を捨てて、生きてきたのか。

そうしなければ
生きられなかったかもしれない。
生きる(しかばね)として。
アルはふと、自分の人生と重ねた。

「旦那様が病気で亡くなり、
すぐに続いて、奥様が交通事故で亡くなったの。

その後に
旦那様の遺言書が出て来て、
テレーサ様に財産を譲るとあったけど・・・
管財人がテレーサ様を見つけ出して、連れては来たけどね・・

管財人もいいように金目の物を売り払って、使い込んだようだし・・
記録がないけど。

もう城も貧乏だし・・
でも借金がないだけましだったかしら」
ダイアナは遠くを見るように、
思い出して言った。

「まるで幽霊のようだったわね・・ここに来た時は・・・

テレーサ様が最初に言ったのは、
奥様の肖像画をはずしてほしい。
これだけ。」
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