恋愛計算は間違える(アルバートとテレーサ)
<アルの記憶>

その香りが引き金になり・・
記憶が・・
封印していた記憶が・・
映画のようによみがえった。

母の声がする。
「アル・・そのままではとっても酸っぱいの」

王宮の裏手は果樹園だった。
オレンジの木もたくさんあった。

母は籠を手に、
オレンジを摘み取り、幼いアルに手渡してくれた。

「本当にいい匂い・・
ママレードにしましょうね。
お父様がお好きだから」

母は王妃らしくなかった。
誰にでも気さくで、料理が好きだった。

父は笑っていた。
「アルバート、見てごらん。
ママレードは神様の食べ物だよ。
この黄金の輝きはすばらしい」

父はスプーンでトロリとした
ママレードをすくい、膝に座った
幼いアルになめさせてくれた。

そのママレードは
太陽の光に透けて、輝くように見える。
母は笑って
「ちょっと苦いところが、またいいのよね」

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